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【解説】ソニーが金融事業を完全子会社化へ TOBの特徴は - M&A Online

新型コロナウイルス感染症影響下で行われた
ソニーフィナンシャルホールディングスの完全子会社化取引に関する検討

1. はじめに

5月19日、ソニー株式会社(以下「ソニー」という。なお、「ソニーグループ」に商号変更予定)は、金融業を行う上場子会社であるソニーフィナンシャルホールディングス株式会社(以下「SFHD」という。)の普通株式及び新株予約権について公開買付け(以下「本公開買付け」という。)を実施し、完全子会社化することを公表し、世間の注目を集めた。

これに対してSFHDは、本公開買付けに賛同し、株主及び新株予約権者に対し、本公開買付けへの応募を推奨することを決議した。

本公開買付けは、新型コロナウイルス感染症影響下で行われた取引であること、買付価格総額約4千億円もの大規模な取引であること、経済産業省「公正なM&Aの在り方に関する指針」(以下「M&A指針」という。)にできる限り準拠し、支配株主による完全子会社化事例の中でもベストプラクティスを目指した事例であり、今後の参考となることから、本稿では、法務の観点から公開資料をもとに、本公開買付けの特徴的な点についてコメントを試みたい。

2. 取引条件

本公開買付けの条件は以下のとおりである。

・ソニーはSFHDの発行済株式約65%を保有しており、公開買付け及びその後の支配株主による株式等売渡請求又は株式併合によるキャッシュアウトにより、残りの株式及び新株予約権を取得する
・買付価格は株式1株につき2,600円、新株予約権1個につき259,900円
・買付予定数の下限は、(株式併合のための株主総会特別決議ができるように)本公開買付け後のソニー保有の議決権総数が3分の2以上になるように設定
・ソニーはすでに約65%のSFHD株式を所有しているため、いわゆるマジョリティ・オブ・マイノリティの下限は設けない

3. 完全子会社化を行う背景・理由

一般に公開買付けにおける開示資料の作成過程では、公開買付者はなぜ対象会社を(完全)子会社化するのか、また、対象会社がなぜ当該公開買付けに賛同するに至ったのかといった、完全子会社化取引の背景・理由に関する説明をいかに行うかが重要な課題となり、とりわけ本公開買付けのような支配株主による完全子会社化取引では、上場廃止を伴うこともあり、東京証券取引所による厳しいレビューが行われる。

本公開買付けにおいても、東京証券取引所や関東財務局当局との幾度にも渡る協議、交渉を重ねた結果として、このたびの開示に至ったものと推察するが、外部から見る限り、本公開買付けによる完全子会社化の背景、理由や、SFHDによる賛同表明に至るまでの経緯の説明は十分かつ説得的に感じられる。

筆者として印象的であった箇所は大要以下のとおりである。

・両当事者がともに上場会社として独立した事業運営を行っている現状では、それぞれの経営資源等の相互活用に際し、その有用性、取引としての客観的な公正性について当社の少数株主の利益をも考慮した慎重な検討を要することから、公開買付者グループ一体となって迅速な意思決定を推し進めていくことが十分にできていないと認識していること
・2007年10月のSFHDの上場に際しては、経営の透明性を高め、独自に市場からの資金調達手段を確保することが重要と考えていたが、事業ポートフォリオマネジメントの観点での検証の結果、SFHDグループの各事業の成長に向けた取組みをこれまで以上に加速させ、SFHDを含むソニーグループ全体の企業価値の最大化を実現するためには、SFHDが上場企業としての独立性を維持するよりも、ソニーがSFHDを完全子会社化し、両当事者の経営資源等の相互活用を一層促進するとともに、グループ一体となって迅速に意思決定を進めていくことが必要不可欠であるとの認識に至ったこと
・ソニーはSFHDの完全子会社化により一層連携を深めることにより、次のようなシナジーの実現を目指していること
 A) テクノロジーのSFHDグループの各事業への更なる活用
 B) ソニーグループ内の協業体制構築による顧客基盤の更なる拡大
 C) 新規事業の実現
 D) ソニーグループの経営資源・ノウハウの活用
 E) 経営効率の向上

総合電機グループであるソニーと、金融グループであるSFHDとではどのようなシナジーが見込まれるのかと一見疑問に思うが、フィンテックによる金融商品の進化を背景として、SFHDの金融事業へのソニーグループの持つテクノロジーの活用推進という大きな目的は説得力を有する。

とりわけ、本公開買付けの開示では、過去の両者グループによる共同商品開発などの協業状況を踏まえて、保険事業における顧客関連データの収集や分析に際して、ソニーのAIやクラウドコンピューティング等のテクノロジーの活用や、So-net、PlayStation顧客への金融関連サービスの提供といったクロスセル加速など、具体的な例示を伴った説明をしている。

公開買付け一般では、公開買付者と対象会社との協業によるシナジーは公開買付け完了後本格的に検討することであり、当局に求められても具体的な記載が難しい場合が多いが、本件では従前から統合に向けて十分な検討が行われてきたことが伺われ、ベストプラクティスの一事例として参考になる。

なお、ソニーによる完全子会社化の理由として「事業ポートフォリオマネジメント」というキーワードを用いていることも、事業ポートフォリオマネジメントの見直しが近時のコーポレートガバナンス上の重要テーマとなってきており、現在も経済産業省「事業再編研究会」においてもこれをテーマとして検討が進められていることから印象的である。

ソニーフィナンシャルホールディングス(東京・大手町)

4. M&A指針に沿った特別委員会組成・運営

本公開買付けにおける取り組みの中でも特筆するべき事項の一つは、M&A指針が提案するところに沿った特別委員会の組成、運営がなされている点である。

(1) 早期設置

M&A指針では、特別委員会設置の時期について、「対象会社が買収者から買収提案を受けた場合には、可及的速やかに、特別委員会を設置することが望ましい」としている(3.2.4.1)。本公開買付けにおける特別委員会については、2020年1月下旬にソニーから初期的打診を受けて以降、2月下旬に設置に向けた準備を行い、同月28日に設置決議がなされており、買収提案から約1ヶ月程度で設置されている。

M&A指針策定後は買収者からの買収提案を受けてから1ヶ月程度で特別委員会が設置されている事例が多いところ[1]、本公開買付けもM&A指針以降の早期設置の実務傾向に沿っているものといえる。

*[1] 阿南剛=有富丈之=竹岡裕介「M&A指針策定後のTOB事例分析―公正性担保措置の実施状況について―」資料版/商事法務434号(2020年5月号)55頁

(2) 委員構成及び独自のアドバイザー

M&A指針では、特別委員会委員の属性について、特別委員会の役割に照らして、社外取締役が委員として最も適任であることから、原則として、社外取締役の中から委員を選任することが望ましいとしている(3.2.4.2B))。

従来、特別委員会にはM&A取引の専門性の確保のため、社外役員の他に、主として弁護士、公認会計士である社外有識者を委員とすることが多かったが、M&A指針では「特別委員会は、委員として最も適任である社外取締役のみで構成し、M&A に関する専門性は、アドバイザー等から専門的助言を得ること等によって補うという形態が最も望ましい」(3.2.4.2)とし、さらに進んで、特別委員会が自らの財務アドバイザーその他のアドバイザーを選任することが有益であるとしている(3.2.4.5)。

このようなM&A指針の提言を踏まえ、同指針策定以降、社外取締役のみで構成される特別委員会を設置する事例[2]、また、特別委員会が独自にアドバイザーを選任する事例[3]が現れ始めてきている。

*[2] 阿南ら前掲注(1)57頁によれば、2019年6月28日から2020年3月31日までに公表された特別委員会を設置した公開買付け事例(以下同じ)全35件中、5件とされている。
*[3] 阿南ら前掲注(1)58頁によれば、35件中12件とされている。

本公開買付けでは、SFHDの特別委員会は、社外取締役3名と社外監査役1名で構成されており、特別委員会の一般的な員数である3名は全員社外取締役とした上で、さらに「弁護士として豊富な経験や専門的な知識等を有する」社外監査役も加えた4名という構成となっている。また、特別委委員会は、財務アドバイザー若しくは第三者算定機関及び法務アドバイザーを独自に選任又は指名する権限を付与され、実際に独自の財務アドバイザー兼第三者算定機関及び法務アドバイザーを選任している。

このように、本公開買付けにおける特別委員会は、M&A指針移行後もまだ数少ない同指針の求めるところに完全準拠した体制となっている。

(3) 特別委員会の判断への拘束の有無

M&A指針では、取締役会は、①特別委員会の判断内容を最大限尊重して意思決定を行うこと、②特別委員会が取引条件が妥当でないと判断した場合には当該M&Aに賛同しないことをあらかじめ決定することが望ましく、取締役会においてかかる決定が行われた場合において、特別委員会が取引条件が妥当でないと判断したときは、取締役会は当該取引条件による M&A に賛同すべきでないとしている(3.2.4.4、3.2.4.5)。

M&A指針策定以降、これまで一般的だった上記①にとどまらず、上記②まで踏み込んで決議している事例が増えてきている[4]。

*[4] 阿南ら前掲注(1)61頁によれば、35件中14件(②のみ決議6件、①及び②双方を決議11件)とされている。

本公開買付けにおいても、SFHDの取締役会は「特別委員会の判断内容を最大限尊重して本取引に関する意思決定を行うこととすること、及び特別委員会が本取引の取引条件が妥当でないと判断した場合には、当社取締役会は当該取引条件による本取引の承認をしないこととすること」と、上記①及び②の双方を決議しており、特別委員会の判断に拘束されることを表明している。

(4) 交渉権限の付与

M&A指針では、「①特別委員会が取引条件の交渉を行う権限の付与を受け、自ら直接交渉を行うこと、または②交渉自体は対象会社の担当役員やプロジェクトチーム等の社内者やアドバイザーが行うが、特別委員会は、例えば、交渉について事前に方針を確認し、適時にその状況の報告を受け、 重要な局面で意見を述べ、指示や要請を行うこと等により、取引条件に関する交渉過程に実質的に影響を与え得る状況を確保することが考えられ」るとしている(3.2.4.4)。

M&A指針策定以降も、上記①の交渉権限まで付与している事例は多いとは言えない[5]。これに対して本公開買付けにおける特別委員会は、「公開買付者との間で取引条件等についての交渉(アドバイザー等を通じた間接的な交渉を含みます。)を行うこと」の権限が付与されている。

*[5] 阿南ら前掲注(1)59頁によれば、35件中4件とされている。

(5) 積極的な関与と交渉プロセスの開示

上記(3)及び(4)のとおり、本公開買付けにおける特別委員会は極めて大きな権限を有しているが、特別委員会は実際にソニーとの交渉に積極的に関与しており、そのプロセスも以下のように具体的に開示されている。

① 完全子会社化のストラクチャーについて、ソニーからは当初、同社株式を対価とする株式交換とする旨の提案を受けていたところ、特別委員会はソニーに対し、SFHD一般株主の利益確保の観点から、対価としての分かりやすさ、確実性、クロージングまでの所要期間、昨今の株式市場のボラティリティ等に鑑み、金銭を対価とする取引形態の方が望ましい旨を書面で伝え、ソニーは公開買付け及びスクイーズアウトによる二段階買収に変更するに至っていること
② 特別委員会はソニーとの間で価格交渉を重ね、ソニー当初提案1株あたり2,000円から始まり、2,200円、2,400円を経て、最終的に1株あたり2,600円で合意したこと
③ 特別委員会は、2020 年2月28日より同年5月19日までの約80日間に合計18回、合計約19時間にわたって開催されたほか、各会日間においても頻繁に電子メールを通じて報告・情報共有、審議及び意思決定を行っており、これは、M&A指針策定以降の公開買付け事例における特別委員会の検討期間、委員会開催回数[6]と比較しても多いこと

*[6] 阿南ら前掲注(1)56頁に検討期間、開催回数の平均値がまとめられている。

本公開買付けは、その開示において「特別委員会は、近時の新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大を契機として、2020 年2月下旬以降、当社普通株式の市場株価が乱高下している中、当該事象が当社2020年度の業績に及ぼし得る影響に関して当社が作成した複数のシナリオ前提に基づくシミュレーションを受領しながらも、本公開買付価格を含む本取引に係る取引条件についての協議・交渉に際しては、かかる市場株価の状況には左右されない当社の適正な本源的価値を評価すべきであることを主張して、公開買付者との間で協議・交渉を重ねてまいりました」とあるように、新型コロナウイルス感染症の影響による株価の変動(とりわけSFHD株価の下落)があった。

そのため、「…情報の非対称性の下で、対象会社の内部情報に通じた取締役や支配株主により、対象会社の市場株価がその本源的価値と比較して一時的に過小評価されているタイミングを利用して、企業価値の向上の観点からは必要性や合理性に乏しいにもかかわらず、単に自らの利益追求のみを目的として M&Aが行われているのではないかとの疑念」(M&A指針注10)が抱かれやすい事案であったといえよう。

だからこそ、SFHDにおいて、上記のように独立性の高い特別委員会が交渉プロセスに実質的な関与をすることを中心として、M&A指針に沿った十分な公正性担保措置を図るとともに、透明性の高い開示を目指したものと推察される。

上記①のとおり、当初、ソニー株式を対価とする株式交換というストラクチャーが検討されていたところ、特別委員会が現金対価によるストラクチャーの変更まで求めたことは一般に中々見られない事象といえるが、これも新型コロナウイルス感染症影響下での株価変動のリスクへの配慮が強く求められた結果であったものと推察される。

5. 特別委員会による答申内容

特別委員会の本公開買付けに対する答申内容は以下のとおりである。

i 当社取締役会は、本公開買付けに賛同する旨の意見を表明するとともに、当社の株主及び新株予約権者に対し、本公開買付けへの応募を推奨することを決議するべきであると考える。
ii 当社取締役会において、本公開買付けに賛同する旨の意見を表明するとともに、当社の株主及び新株予約権者に対し、本公開買付けへの応募を推奨することを決議することは、当社の少数株主にとって不利益なものではないと考える。また、本公開買付けが成立した後における公開買付者による当社の完全子会社化は、当社の少数株主にとって不利益なものではないと考える。

上記iiは、親会社による公開買付けに対する意見表明は、東京証券取引所の企業行動規範上、「支配株主との重要な取引等」に該当することから、特別委員会を含む支配株主との間に利害関係のない第三者から「少数株主にとって不利益なものでないことに関する意見」の入手が求められることに基づいて行われる答申であり、一般的に特別委員会への諮問事項及び答申内容となっている。

これに対して、上記iは、本公開買付けの賛同意見表明及び応募推奨について、取締役会は決議する「べき」と、より踏み込んだ積極的な評価、提言をしている点が特徴的である。

上記iiにとどまらず、iのような答申内容を行っている事例は本公開買付けが初めてではなく、M&A指針策定以降、例えば東芝インフラシステムズによる西芝電機の完全子会社化取引及び三菱ケミカルホールディングスよる田辺三菱製薬の完全子会社化取引においても同様の答申が行われている。

この点、M&A指針は、特別委員会の役割について、「①対象会社の企業価値の向上に資するか否かの観点から、M&A の是非について検討・判断するとともに、②一般株主の利益を図る観点から、(i)取引条件の妥当性および(ii)手続の公正性について検討・判断する役割を担う」と述べるにとどまり(3.2.2)、上記iのような完全子会社化取引に対して積極的な評価を伴う答申をなすことまでは触れていない。

しかし、完全子会社化取引への意見表明を含むM&Aの実施は、高度な経営判断を伴う業務上の意思決定といえる。たとえ取締役会メンバーである社外取締役を中心とした特別委員会委員構成であったとしても、社外取締役は経営陣への監督を主な役割とし、業務執行には関与しないのであり、取締役会に対して賛同・応募推奨を行う「べき」と促す、裏を返せば、公開買付けに対する不賛同という決定はするべきでないという積極的な提言までする必要があるのかどうかは理解しかねるところである。

あくまでも私見に過ぎないが、特別委員会が、上記iのような積極的な答申を行う場合には、本公開買付けでも行われているように、以下の2点が前提となるように思われる。

(1) 特別委員会委員は社外取締役を中心として構成されていること
※ これに対して、対象会社に対して法律上の責任を負わない外部有識者や、適法性監査を業務範囲とする社外監査役中心に構成されるのではこのような積極的な答申を行う正当性の根拠を欠くのではないか。
(2) 特別委員会に独自の交渉権限が付与され、かつ、実際にこの権限を行使して公開買付者との交渉を積極的に行ったこと
※ 主体的に交渉に関与した当事者だからこそ、このような積極的な答申を行うことができるのであり、そのような関与をしていないのであれば、かかる答申の正当性の根拠を欠くのではないか。

6. フェアネス・オピニオンの取得

フェアネス・オピニオンとは、「フェアネス・オピニオンとは、一般に、専門性を有する独立した第三者評価機関が、M&A等の当事会社に対し、合意された取引条件の当事会社やその一般株主にとっての公正性について、財務的見地から意見を表明するものをいう」(M&A指針3.3.2.2A))。

M&A指針では、フェアネス・オピニオンは、「公正性担保措置として有効に活用し得るもの」としつつも、「その公正性担保措置としての有効性は事案により一様ではない」として、その取得について必ずしも積極的に推奨しているものではない(3.3.2.2B))。

本公開買付けでは、SFHD及び特別委員会の双方の第三者算定機関からフェアネス・オピニオンを取得しているだけでなく、公開買付者であるソニーにおいてもフェアネス・オピニオンを取得している点が本公開買付けの大きな特徴である。

M&A指針策定以降であってもフェアネス・オピニオンを取得した事例は支配株主による完全子会社化取引のうち7件のみで、しかもいずれも特別委員会又は対象会社のいずれか一方のみが取得していることから[7]、特別委員会、対象会社及び公開買付者という全ての当事者が取得している事例はわが国の同種取引では本件が初めてのようである。

*[7] 阿南ら前掲注(1)63頁、68頁

取引の公正性を高め、ベストプラクティスを目指すという一般論な観点からは首肯できるものの、フェアネス・オピニオン取得には株式価値算定書よりも高額な費用がかかるにもかかわらず、特別委員会の第三者算定機関のみならず、対象会社であるSFHDの第三者算定機関からも取得した背景は開示資料からは明らかではない。

あくまでも推測に過ぎないが、M&A指針によれば、フェアネス・オピニオンの公正性担保措置としての有効性は、第三者算定機関の「①独立性・中立性、②慎重な発行プロセス、③高度な専門性・実績、④レピュテーションといった要素」を考慮して判断されるものであることから(3.3.2.2B))、各第三者算定機関又はその候補者についてこれらの要素を総合的に考慮した結果、SFHD、特別委員会双方取得という判断に至った可能性がある。

また、公開買付者であるソニーが株式価値算定書にとどまらずフェアネス・オピニオンを取得する必要性についても、開示資料からは明らかではない。公開買付者の立場からは、不当に高い買付価格で本公開買付けを行っていないという取締役の善管注意義務を尽くすという趣旨であろうことは理解できるが、それは株式価値算定書による算定結果のレンジの範囲内であれば足りるのであり、フェアネス・オピニオンの取得までは不要のようにも思われる。

これもあくまで推測に過ぎないが、フェアネス・オピニオンの取得は欧米では一般的なプラクティスであるとされているところ(M&A指針3.3.2.2A))、ソニーの株主構成は外国人株主の割合が過半数を占めることから(2019年3月31日時点で56.1%)、フェアネス・オピニオン取得により、本公開買付けの買付価格について海外機関投資家の理解を得る必要が高かった可能性がある。

7. 最後に

以上のとおり、本公開買付けは、M&A指針策定以降の他の公開買付け事例と比較しても、特別委員会の設計・運営を中心とする公正性担保措置について相当程度ベストプラクティスを目指したものと言える。これは、買付価格総額約4千億円もの大規模な取引であることに加え、新型コロナウイルス感染症影響下の株価下落局面であったことから、より公正性を高めるプロセスが志向されたものと思われる。

一般に上場子会社は、歴史的な経緯から上場を維持しており、親会社とのシナジーという観点では上場を維持する必要性についてもはや合理的な説明が難しくなっているところも少なくないように思われる。

今後、コーポレートガバナンスの主要課題として事業ポートフォリオマネジメント見直しの機運が高まれば、支配株主による完全子会社化取引はさらに増加する可能性がある。本公開買付けの水準でベストプラクティスを目指すことは全ての取引においてできるものではないが、M&A指針の求めるところを実践した重要な先行事例として今後の参考となるだろう。

文:柴田 堅太郎(弁護士)

参考URL
公正なM&Aの在り方に関する指針|経済産業省

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June 03, 2020 at 03:49AM
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