ニュース解説
「不眠」や「過眠」に代表される睡眠障害。不眠症では近年、依存性の少ないオレキシン受容体拮抗薬の使用が広がっている一方、いわゆる「スリープテック」の分野も動きが活発で、日本ではサスメドが薬事承認を目指して治療用アプリを開発中。武田薬品工業はナルコプレシーを対象に先駆け審査指定制度の対象品目に指定されている「TAK-925」を開発しており、注目を集めています。
睡眠障害 経済損失は年3.5兆円
「寝つきが悪い」「夜中に目が覚めてしまう」など、多くの人が悩みを抱える睡眠。なかでも、「入眠障害」「中途覚醒」「早期覚醒」などの「不眠」や、日中に強い眠気に襲われる「過眠」は代表的な睡眠障害の症状です。睡眠障害による日本の経済損失は年間3.5兆円に上るとも言われます。
世界保健機関(WHO)は2018年、国際疾病分類の改訂(ICD-11)で「睡眠・覚醒障害」の章を新設。睡眠障害に分類される疾患はそれまで、「神経系の疾患」や「精神および行動の障害」に分かれていましたが、専門家の医学的知見をもとに1つの疾患系統にまとめられました。
WHOによる新たな分類によれば、睡眠障害には、不眠や過眠のほか▽睡眠時無呼吸症候群に代表される「呼吸障害」▽一般的な昼夜サイクルから外れた時間に眠ってしまい、生活に支障をきたす「概日リズム睡眠障害」▽夜驚症や夢遊病、歯ぎしりなどの「睡眠時随伴症(パラソムニア)」――などが含まれます。
BZD受容体に作用しない薬剤が相次ぎ登場
不眠症は睡眠障害の中で最も一般的な疾患。全世界で成人の3割が症状を抱えているとされ、女性や高齢者の罹患率が高いことが知られています。治療は、睡眠習慣を改善する睡眠衛生指導や認知行動療法に薬物治療を組み合わせるのが一般的です。
治療薬としてはこれまで、エチゾラム(ベンゾジアゼピン=BZD系)やゾルピデム(非BZD系)といったBZD受容体作動薬がよく使われてきましたが、2010年以降、BZD受容体に作用しない薬剤が相次いで承認されています。同年には武田薬品工業がメラトニン受容体作動薬「ロゼレム」(一般名・ラメルテオン)を発売し、14年にはMSDのオレキシン受容体拮抗薬「ベルソムラ」(スボレキサント)が発売。今年1月にはエーザイの同「デエビゴ」(レンボレキサント)が承認を取得し、4月22日に薬価収載される予定です。
BZD受容体作動薬は最も一般的な睡眠薬ですが、長期的な使用による依存性が問題で、減薬・断薬時にせん妄などの離脱症状が起きやすいとされます。このため適正使用の取り組みが進んでおり、18年度の診療報酬改定では、同一成分のBZD受容体作動薬を1年以上にわたって同じ用量で処方し続けた場合に処方料と処方箋料を減算するルールが新設。一方、体内時計を調整するロゼレムや、覚醒を維持する脳内神経伝達物質オレキシンの働きを抑えるベルソムラとデエビゴには依存性がないとされ、こうした薬剤の使用が広がっています。
治療用アプリも開発中
国内ではこのほか、イドルシア・ファーマシューティカルズ(スイス)のオレキシン受容体拮抗薬daridorexant(開発コード・ACT-541468)が臨床第2相(P2)試験を実施中。同社は昨年12月にライセンス契約を結んだ持田製薬と共同で開発を進めており、承認取得後は共同販売する予定です。大正製薬は不眠症を対象に「TS-142」のP2試験を行っています。
不眠症の分野ではデジタルセラピューティクス(DTx)の開発も活発で、米国では今年3月、米ペア・セラピューティクスが開発した認知行動療法に基づく治療用アプリ「Somryst」が、不眠症向けDTxとして初の承認を取得。日本ではサスメドが薬事承認の取得を目指して治療用アプリ「yawn」のP3試験を実施中です。
武田 ナルコプレシー薬のP1で良好な結果
睡眠障害の領域で大きな注目を集めている新薬候補が、武田がナルコプレシーを対象に開発中のオレキシン2受容体作動薬「TAK-925」「TAK-994」です。
ナルコレプシーは、日中に過度な眠気に襲われて居眠りを繰り返す疾患で、オレキシンを産生するニューロンが消えることで起こるとされます。幻覚や睡眠麻痺(金縛り)なども特徴で、感情の高ぶりに合わせて全身の力が抜ける「情動脱力発作(カタプレキシー)」を伴うこともあります。患者数は全世界で300万人を超えると推定されていますが、有効な治療選択肢は少なく、アンメットメディカルニーズの高い疾患です。
24年度までの承認取得目指す
TAK-925は、カタプレキシーを伴うナルコレプシー患者を対象に行ったP1試験で良好な結果を得ており、データは昨年9月の世界睡眠学会で発表され、大きな話題を呼びました。日本では19年4月に同社初となる先駆け審査指定制度の対象品目への指定を受け、米国でもブレークスルーセラピーに指定されています。
武田はTAK-925について、ナルコプレシーだけでなく、特発性過眠症や交代勤務睡眠障害などへの展開も検討しているほか、経口薬のTAK-994も開発中(TAK-925は静注薬)。いずれも2024年度までの承認取得を目指しており、武田創製で久々に大型化が見込まれる新薬候補としても注目されています。
(亀田真由)
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April 15, 2020 at 05:00AM
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