一般的な降圧薬で大腸がんの発症リスク低下の可能性
高血圧患者の間で広く使用されている2種類の降圧薬に、血圧を下げる作用だけでなく、大腸がんの発症リスクを低下させる作用もある可能性が、香港大学医学部附属クイーンメリー病院のWai Leung氏らによる研究で示唆された。
降圧薬のアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)を使用している人では、これらの薬剤を使用していない人と比べて大腸がんを発症するリスクが低いことが示されたという。詳細は「Hypertension」7月6日オンライン版に発表された。
この研究は、40歳以上の成人患者18万7,897人の2005~2013年の医療記録データを解析したもの。対象となった患者は全て香港在住で、ベースライン時の大腸内視鏡検査の結果は陰性だった。
また、大腸がんの既往歴がある人は対象から除外された。対象者のうち、ACE阻害薬またはARB使用者は全体の16.4%(3万856人)であり、0.45%(854人)が大腸内視鏡検査後6〜36カ月以内に大腸がんを発症した。
解析の結果、大腸内視鏡検査で陰性だった人が検査から3年後までに大腸がんを発症するリスクは、ACE阻害薬またはARBを使用していない人と比べて、いずれかの薬剤を使用している人で22%低かった(調整ハザード比0.78、95%信頼区間0.64~0.96)。
また、ACE阻害薬やARBの使用期間が長くなるほど、大腸がんリスクは低下することも示された(いずれかの薬剤の使用が1年増えるごとに、大腸がんの発症リスクは5%低下)。
さらに、ACE阻害薬またはARBの使用に関連した大腸がん発症リスクの低下度が特に高かったのは、55歳以上の患者と大腸ポリープの既往歴がある患者であった。ただし、以上のような両薬剤の使用に関連したベネフィットは、検査後3年間のみで認められた。
これらの結果についてLeung氏は、「大腸内視鏡検査で陰性の結果が得られて以降、特に検査から間もない期間において、大腸がんに対するACE阻害薬やARBの強い保護効果が示された」と説明する。
大腸がんは、患者数が世界で3番目に多く、がんによる死亡原因として2番目に多い。そのため、今回の研究には関与していない、米ペンシルベニア大学病院のRaymond Townsend氏は、「多くの人々に処方されている薬剤が大腸がんの予防目的でも使用できるのであれば、公衆衛生に与える影響は極めて大きい」と指摘する。
また同氏は、「今回の研究が大規模な集団を対象としたものである点を考慮すると、示された結果の意義は大きい」という見解を示している。
なお、過去には、降圧薬ががんリスクを高める可能性があるという、今回の報告とは真逆の研究結果が報告されている。しかし、その作用機序を考えれば、降圧薬にがんを予防する作用がある可能性は否定できない。
なぜなら、がんの増殖には新しい血管の形成(血管新生)が必要だが、降圧薬にはそのプロセスを阻害する働きがあるからだ。
Townsend氏と同様、今回の研究には関与していない米ハーバード大学医学大学院教授のAndrew Chan氏は、「ACE阻害薬などの降圧薬が、腫瘍への血液供給を阻害して増殖を阻止する可能性は考えられる」と話す。
ただし、今回の研究は因果関係を証明するものではないことを強調した上で、「1件の研究だけでは臨床に影響を与えるような結果は得られない。今後、さらなる研究で同様の関連が示されるか検証する必要がある」と付け加えている。(HealthDay News 2020年7月6日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.ahajournals.org/doi/abs/10.1161/HYPERTENSIONAHA.120.15317
Press Release
https://newsroom.heart.org/news/common-hypertension-medications-may-reduce-colorectal-cancer-risk?preview=bb23
構成/DIME編集部
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July 30, 2020 at 12:31PM
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