セキュリティ・トークン・オファリング(STO)は、2017年の新規コイン公開(ICO)バブルの崩壊の後、ブロックチェーンベースの投資の次の大きな目玉となるはずだった。しかし、次世代の取り組みと期待されたSTOは大々的な前評判に応えられていない。その理由は、規制の不透明さやコストの高さなど数多く存在する。
2019年はSTOの年になるはずだった
関心の欠如は、特にタイと台湾で際立っている。どちらも、投資を促進するために最初にSTO規制を定めた地域だ。
STOはICOに類似しており、投資家には仮想通貨あるいは投資を表すトークンが発行され、ブロックチェーンに記録される。コインやトークンは保有、販売、取引が可能だ。セキュリティトークンは金融証券を表すものなので、購入されたトークンは、資産、企業の収益や利益といった有形資産によって裏付けられている。
2018年はじめから、世界中の多くの規制当局はこの新しいタイプの投資を惹きつけるための法的枠組みとなる法律を作り始めた。タイと台湾は、STOのための法的枠組みを発表した最初の地域に含まれていた。だが、法律を利用する企業を惹きつけることはなかった。
台湾やタイは、歴史的に金融ハブとは考えられていない。しかし、これらの地域でのSTOへの関心の欠如は、資金調達のためにSTOを利用するかどうかを決断する際にブロックチェーンスタートアップや投資家が直面する難題への糸口となるかもしれない。
「多くの機関投資家にとって、STOはICOよりも理解しやすいが、STOへの資金や流動性の本格的な流入はまだ見られていない」とPwCのグローバル仮想通貨責任者で香港在住のヘンリ・アースラニアン(Henri Arslanian)氏は語った。
「多くの人が2019年はSTOの年になると考えていた。だが、多くの進展があったとはいえ、この分野に投資家の資金が本格的に流入することはなかった」
2020年は楽観的か?
サティス・グループ(Satis Group)のCEOで、コンセンシス・デジタル・セキュリティーズ(ConsenSys Digital Securities)の米金融取引業規制機構(FINRA)登録代理人、エマ・チャニング(Emma Channing)氏はCoinDeskへの寄稿で、STOは2019年、2018年に最初に登場した時に比べて、大きく改善されたインフラ技術と低コストを提供したと記した。
「同時にプラットフォームは、ブローカー・ディーラーが必要とする機能(例えば、ブローカー・ディーラーがFINRAの規則に沿って適正にアドバイスを行うための、潜在的な投資家の投資経験やリスク許容度などの適合性データ)をはじめとしたエンドツーエンド機能やコンプライアンスについて、よく考えられたデザインを提供し始めた。こうした進展は、きわめて重要なカストディ業界などの登場とともに、(STOの)長期的成熟にとって良い前兆となった」とチャニング氏は述べた。同氏は技術の継続的な改善により、2020年についてはより楽観的な見解を持っている。
「今後は適切な発行者、適切な商品、適切な購入者を見つけることだけが問題となる。究極的にはここ2年間の進展を考慮すると、我々はSTOは公開市場・未公開市場の全体を通して一般的なものになるという自信を持ち続けている」
しかし世界の一部の地域では、STOは苦戦している。タイの証券取引委員会の広報担当者は、2019年中頃にSTOを規制する法案を承認したにも関わらず、同国でSTOを通じて資金調達を行った組織は存在しないことをCoinDeskに認めた。
台湾では、台北に拠点を置き、仮想通貨スタートアップの買収に関わり、台湾の金融監督管理委員会(Financial Supervisory Commission:FSC)の顧問も務める法律事務所ウィンクラー・パートナーズ(Winkler Partners)は広報担当者を通じて、台湾の大半のブロックチェーン企業は「現在のところ、一般的にセキュリティトークンよりもユーティリティトークンを発行している」と述べた。
失速したプロセス
2018年、タイの仮想通貨企業に関する国王令は、仮想通貨への課税のための正式な仕組みを作り出した。
2019年、この国王令は同国の証券取引委員会にライセンスを受けたSTOポータルの作成を許可するためにに拡張された。しかし、バンコクの法律事務所プグナトリアス(PUgnatorius)がまとめた書類によると、この枠組みが作られた後に生まれた5つのデジタル資産取引所は2019年9月時点で運営を停止している。
台湾では、金融監督管理委員会(FSC)が2019年中頃にSTOに関する最初の草案を発表し、「世界初のSTO法」と呼んだ。そして利害関係者からのフィードバックが推奨された。しかし、プロセスは停滞した。
FSCは最終的な枠組みを発表しておらず、発表を2020年はじめまで遅らせているが、現地企業はプロセスの開始を許可されている。当初、STOに関する取り組みは主に「仮想通貨議員」として知られ、台湾を仮想通貨業界の最前線とすることを目指す元議員のジェイソン・スー(Jason Hsu)氏によって進められた。
それでもブロックチェーンスタートアップは、現在の枠組みには興味を示しておらず、資金調達を開始していない。
現在の枠組みによると、100万ドル(約1億1000万円)以上の資金調達を目指す企業は、FSCが運用する「金融規制サンドボックス」でテストを行い、一般に対しては徐々に展開することが求められている。
この金額未満での資金調達を目指す場合は、認可を受けた投資家のみ、最大1万ドル(約110万円)までの投資額といった規制上の制限がある。
市場との乖離
必要とされる資金の大きさだけが、台湾でブロックチェーンスタートアップがSTOを選択することを妨げている問題ではないかもしれない。
台湾におけるSTOの状況は、台湾でかつて活発だったエクイティ・クラウドファンディングに起こったことに似ている。法的な障壁が高く、投資限度が低いために、健全なリターンの可能性が存在しなかった。
2013年に立ち上げられた台北取引所はGISA(Go Incubation Board for Startup and Acceleration Firms)を運営しており、ポータルが投資を集めることを支援している。
2015年、FSCは2つの現地仲介業者、マスターリンク・セキュリティーズ(Masterlink Securities Corp.)とファースト・セキュリティーズ(First Securities)に独自プラットフォームの立ち上げを許可した。これらのプラットフォームを通じて、50近くの企業が資金調達プロセスを行い、2億ドル(約220億円)を超える資金を調達した。
しかし、台湾のエクイティ・クラウドファンディング市場は成熟していると見なすことができるかもしれないが、GISAへの関心は最終的に失われてしまった。原因は、認可投資家に対してプロジェクトごとに最大2000ドル(約22万円)までの投資に限定した厳しい規制だ。
「規模があまりにも小さく、誰も上場を望まなかった」とジェイソン・スー氏は述べた。
「満足させるために飴をあげるようなもので、本当に成果をあげるようなものではなかった」
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Thai currency image via Shutterstock
原文:Why Security Token Offerings Are a Big Yawn in Parts of Asia
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February 18, 2020 at 04:00AM
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