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「社会的な距離」をとるのは人間だけじゃない:集団感染を防ぐ習性をもつ生物たち - WIRED.jp

病気を食い止めるべく見事に対応している社会を見たいのであれば、人間の社会については少し忘れてほしい。その代わり、人間の身近にいるミツバチのコロニーを見てみよう。そこから、さまざまな衛生戦略を見つけられるはずだ。

ソーシャル・ディスタンシング(社会的な距離の確保)から除菌処理、疑似ワクチンにいたるまで、ハチは集団の健康維持に役立つ多種多様な「集団免疫」を開発していることが研究によって示されている──。ノースカロライナ州立大学でミツバチを研究するアリソン・マカフィーは、そう説明する。

「ミツバチは実に巧みな戦略をもっています。この戦略によって、ウイルスのように見える小さな分子を互いに分け合えます。そのおかげで免疫がつくのです」と、マカフィーは言う。「これはワクチンのようなものであると考えてもいいでしょう」

この驚くべきシステムについて2019年に発表された研究が明らかにしたことは、ミツバチが巣に隠したゼリーにこの分子を入れ、幼虫にそのゼリーを食べさせて分子を伝えていく方法だ。

ミツバチは、巣の一部をプロポリスと呼ばれる粘着性の樹脂で覆う方法もとっている。古くから抗菌作用があることで知られているプロポリスを巣の入口に塗るので、人間が店舗に入るときに手指消毒剤を使う場合と似た状況になるのだと、マカフィーは指摘する。

極端なソーシャル・ディスタンシング

だが、ミツバチが疾病管理のヒントになるモデルを人間に与えてくれるのではないかと感じたのであれば、考え直してほしい。ミツバチは情け容赦ない。コロニーの1匹が病原体に感染するやいなや、なりふり構わなくなるのだ。「病気のメンバーを必ず殺すのです」と、マカフィーは言う。

具体的には、病気にかかったミツバチを文字通り、巣の外に引っ張り出して地面に落とすやり方が多い。こうして落とされたミツバチは死ぬことになる。複数の研究によると、病気にかかったミツバチが自らコロニーを去る「集団本位的自殺」という現象すら確認されている。

マカフィーいわく、この現象はソーシャル・ディスタンシングの極端なかたちだと考えられる。それは人間にはあまりにも無慈悲に思えるだろう。言い古された「適者生存」という決まり文句は、思いやりのない人間が冷酷な行動を正当化しようとする際に使う場合がある。このコロニーにおいても、それが当てはまるのだ。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)のなか、生物が集団のメンバーと距離を保ったり、メンバーを隔離したりする一般的な方法が多くの論文で指摘されている。この種の論文は、マスクの装着やソーシャル・ディスタンシングのガイドラインの遵守を徹底していない人々に注意を促しているようにも思える。だが、このような興味深い論述は、人間と動物との決定的な違いを見落としている。

アリも社会的な距離を保つ

マカフィーによると、その違いとは「倫理」である。メルボルン大学でミツバチの集団免疫を研究している生物科学者ルーク・ホールマンによると、コロニーの存続はミツバチにとって実に重要であり、その重要性は人間にはほぼ理解不能なほどだ。

ミツバチは、コロニーの存続によって遺伝子を保存する。このため、ミツバチが容赦ない行動や自殺に等しい行動をとる場合、間接的ではあるが、ある意味では自身を守っているのだ。「病気になったミツバチは集団にとって、もはや役に立つ存在ではありません」と、ホールマンは言う。

一方で、ウイルスの脅威に直面した社会性昆虫が互いの身を守れることを示す素晴らしい例もあると、ヴァージニア工科大学教授で生物科学が専門のダナ・ハウリーは指摘する。その上でハウリーは、2018年に『サイエンス』誌に発表されたオーストリアとスイスの研究者による論文に言及する。

その論文は、巣に病原菌がまん延しないようにするために、アリがソーシャル・ディスタンシングの方法を編み出していることを明らかにしている。巣の外に出て食糧を調達することで病原菌を巣の中に持ち込みやすい働きアリと、巣の中にいる女王アリや育児をする若い働きアリは、かなり距離をとって暮らしているのである。

「シミュレーションでわかったのは、この仕組みによって集団の階級の上位の個体が下位の個体と比べて不釣り合いなほど、病気の発生源になる可能性が最も高いものから保護されていることである」と、この論文の著者は記している。

この研究結果でハウリーが思い起こすのは、新型コロナウイルスのパンデミックにおいて、医療従事者が新型コロナウイルスをうつす可能性を減らすために、場合によっては何カ月も家族と離れて暮らしている現状である。

ところが、ここでもまた生物の例がそのまま人間に当てはまるわけではない。新型コロナウイルスの感染予防のために医療従事者が家族と離れて暮らすような事態は、人間にとって非常にまれだからだ。「多くの人々が犠牲を払っています」と、ハウリーは言う。

さらに、アリのような生物は化学信号によってソーシャル・ディスタンシングを始める。科学者はその種の信号は何か、どのように作用するのかについて解明しようとしている。

アリの場合よく知られているのは、巣に病原菌が侵入した数時間後にはコロニー全体を変える習性だ。例えば、病気になったアリはすぐに自主隔離する。この習性は、病気になったアリがつくる化学的なヒントのおかげで可能になるようだが、その詳細はいまだに謎である。

病気の個体を識別するロブスター

アリ以外の生物も、化学信号によってソーシャル・ディスタンシングを始めることが証明されている。

例えば、ロブスターにもその習性がある。フロリダ大学森林資源保全学大学院のドナルド・ベリンガー教授と同僚は、ロブスターの集団が病気の個体の尿から拡散される化学マーカーによって、その個体が病気であると認識できる仕組みについて証明した。

病気のロブスターが集団内にいるとわかると、そのロブスターはほかの個体から距離を置かれるようになる。病気を示す手がかりが周辺の水中に拡散されるので、病気のロブスターがそばにいることを、ほかの個体は目で確かめるまでもなく認識できるのである。

ロブスターのこのような習性は人間には見られないと、ベリンガーは指摘する。とはいえ、人間もせきやくしゃみの音を聞けば、衛生上の理由から誰かを避けるべきときを判断できると考えたいところだろう。しかし、わたしたちには「病気のせき」と「健康上の問題がないせき」との区別がつかないことが、研究によって示されている。

「病気をほのめかす視聴覚的な手がかりは、病気を見つける上で非常に効果的な方法とはいえません」と、ベリンガーは言う。「この種の手がかりを基に誰かが病気であると判断することは、正しくない場合が多いのです」

マンドリルの選択と家族の絆

それに、病気の人すべてが病気であると生物学的に識別されてほかの人々から排除されては、人間にとってかなり過酷に感じられるかもしれない。だが、そういうことが人間社会で生じないわけではない。体に障害のある人々が疎外されている状況をどう感じているのかについて、よく考えてみるといい。

感染症の時代に、人間は互いにどのような態度をとるべきなのか。動物たちはその完璧なお手本を示してくれないにしても、ソーシャル・ディスタンシングのような措置がどれだけ有効なのかについてはヒントを示してくれる。こうした措置は一部の動物にとっては、明らかに長年にわたる進化の証である。

しかし、わたしたちはアリやミツバチよりも遺伝子的に人間にかなり近い動物を参考に、ソーシャル・ディスタンシングからさらに進んだ措置をとることができる。

例えば、今年2月に発表された研究論文では、サルの一種であるマンドリルが病気の個体から距離を置く際にする重要な選択が判明している。マンドリルは集団に属する個体の便のにおいをかいで、その個体が病気であると判断できる。誰が病気なのかわかると、その個体から距離を置けるのだ。

ところが今回の新たな研究によると、肉親が病気にかかった場合は、ほかの健康なマンドリルは病気の家族の身づくろいをやめず、そばにい続けるという。「マンドリルにとって家族との絆はとても大切なので、絆を保ち続けるのです」と、ハウリーは説明する。

人間ならではの行動

人間や人間の近縁種の生存にとって、社会的な絆が役立つことは証明済みである。そしてパンデミックの状況下、言うまでもなくわたしたち人間は、疾病対策のために独自の方法を開発してきた。

そもそも、わたしたちはミツバチとは異なっている。ミツバチの短い命はコロニー全体の存続と切り離せないし、人間はミツバチよりはるかに個々の自由を尊重する。

それに人間社会がときには高い代償を払いながらも、個人の命を犠牲にするためではなく、守るために発展してきたことは事実である。一方で残念なことに、歴史上も現在も、この倫理的な原則を軽視する例が数多くある。

ヴァージニア工科大学のハウリーは、新型コロナウイルスのパンデミックによってわたしたちは結局のところ、共同体への貢献を目指すアプローチをとらなければならなくなったと指摘する。その上で、「COVID-19のような感染症の決定的な特徴は、あなた自身の健康がほかの人たち全員の行動に左右される点なのです」と言う。

これは逆説めいているが、ハウリーによると、わたしたち全員が一人ひとり個人として生き残るためには、このアプローチが最良の方法なのである。

個人を守るために共同体のメンバー協力する行為は、極めて人間らしい対応である。こうした行動と似た行動は、ほかの動物にも見られる。わたしたちはこの行動を常に正しく理解しているわけではないものの、それは進化した動物である人間ならではの行動なのだ。

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