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高齢者の「身体性うつ」には服薬が不可欠(上田諭) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

うつには「3つのうつ」がある

 活気がなく気分が暗くなる、やる気が出なくてつらい、食欲が出ないといったうつ状態が高齢者で続くとき、「3つのうつ」のどれかが考えられる。1.身体疾患によるうつ 2.身体性うつ=うつ病 3.心理性うつ である。まっとうな精神科医ならこれを1から順番に疑い、それにあった治療を行う。この3つがごっちゃに語られることがまれでない。3つは治療が異なるにもかかわらず、である。精神科のうつ状態の見方はこの20年ほど混乱したままで、一般の人たちが理解しづらいのも無理はない。

身体疾患でないと確かめる

 うつ状態で第一に疑われるべきなのは、身体疾患である。発熱や痛みなどの一般的な身体不調でももちろん、すぐにはわからない隠れた身体疾患があれば、元気がなくなり、気分が落ち込むことは当然起きる。若年者より身体に多く病をかかえ、服薬の種類も多い高齢者ではとくにそうである。

 発熱、動悸や徐脈、呼吸困難、痛みや身体各部の不快があれば、感染症による炎症や心肺機能不全などが疑われる。それらがなくても、甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモンなどの内分泌疾患も疑う必要がある。これらは、血液・画像検査でおおよそチェックできる。

 必要な治療は、もちろん身体不調・疾患への対処である。原因に応じて各身体診療科で治療をする。精神科による治療はほとんど意味がない。

うつ病には身体的治療が必須

 身体疾患が原因でないならば、うつ状態で高齢者にもっとも多いのが「身体性うつ」すなわちうつ病である。うつ病というと、つらい別れやショックな出来事があって落ち込む、というイメージを多くの人が抱いているが、それは「心理性うつ」(次項)のことである。人生経験も豊富ですでに仕事や恋愛から離れている高齢者では少ない。うつ病は以前は「内因性うつ病」と呼ばれ、外の出来事が原因で起きる「心の変調」ではなく、本人もよくわからないうちに起きる「原因不明の脳の変調」である。誘因と呼べるようなものがあるときでも、些細な心配事や軽い病気などが多い。この心配事や病気が回復しても、うつ状態は悪いままだ。重症化すると、昏迷という無言無動の状態に移行してしまう場合もある。「大きな罪をおかした」と妄想に苦しんだり、自殺企図に至ったりする心配もある。うつ病は単なる「心の病」ではなく、「身体性の心の病」とわきまえたい。

 うつ病の人にはつらさを傾聴してあげることが大事とよく言われるが、うつ病には当てはまらない。身体性の病だからである。例えば、胃癌や脳腫瘍や大けがの人が一番してほしいことは、話を聴いてもらうことではない。身体の病を薬や手術で治してもらうことだ。うつ病も同じである。身体的治療こそがうつ病を癒す。もちろん、話を親身に聞いてくれることは、ときに大きな支えになる。ただ、根本的治療ではないことはうつ病も同じなのである。

 根本治療として、薬物療法が不可欠であり、それで不十分なら電気けいれん療法を用いる。うつ病は放っておいて自然に治ることは非常にまれだ。治療をしないでいれば、何年も苦しみ続けることになる。

 <薬物療法>副作用に留意しつつ抗うつ薬を服用してもらう。2~3錠以上の服用が必要になる場合も、0.5~1錠で十分な場合もある。

 <電気けいれん療法>重症うつ病に対して、薬物療法より早く確実な効果を期待できる治療法で、麻酔で痛みや恐怖をなくしけいれんも最小限にする管理の下に全国の大学・総合病院で行われている。かつては精神科病棟で懲罰的に用いられ、また不適切な手法により記憶障害が多発した不幸な過去があるが、現在は安全性に配慮した的確な方法が浸透しつつある。

 高齢者のうつ病には、制止型と焦燥型の2つの型がある。

・制止型 制止とは、精神活動が低下し意欲や活動性が低下する症状のことで、動けない、何にも興味がもてない、話さない、食べられないといった状態になる。重症うつ病は入院の対象となるが、医師や看護師が話をしても、会話自体が苦痛でほとんど助けにならない。改善が遅れると、臥床状態が続き、上下肢の筋力のほか嚥下能力も低下し、肺炎や歩行障害など余病を併発しやすい。

・焦燥型 じっとしていられずそわそわと落ち着きがなく、歩き回ったり足踏みを続けたりしながら、辛さを頻回に訴える。胸が苦しい、足がしびれる、頭が重苦しいなどの訴えが続き、身体的な苦痛を多く伴う。医師や看護師が診察で話を聞くと、一瞬はその苦痛は和らぐかにみえるが、すぐにまたぶり返す。患者の苦痛と苦悩は、制止型にも増して強い。

 焦燥型は身体の訴えが多くなるので、身体症状症(身体表現性障害)や不安症と間違われることがあり、注意が必要だ。

現実の悩みが生む心理性うつ

 つらい別れやショックな出来事があれば、誰でも気分が落ち込み、やる気がなくなり、食欲が低下し、睡眠もままならなくなる。ときには死にたくなる。通常なら短期間で元気を回復するが、これが持続するのが「心理性うつ」である。上述のうつ病とは異なり、「原因不明の脳の変調」ではなく、原因に反応して生じたうつ状態である。「身体性うつ(うつ病)」では、きっかけとなったことがらが回復してもうつ状態は変化しないが、心理性うつでは元のつらい原因がなくなれば、うつは消えてしまう。

 心理性うつは高齢者には少ない。退職し会社の上下関係がないこと、恋愛をしている人が少ないこと、友人とのいさかいも少ないこと、人生経験が豊富で人格も成熟し、つらさに耐える力(耐性)もついていることなどが、理由としては考えられる。一方で、高齢者は喪失体験が多いからうつになりやすいとよく言われる。たしかに、連れ合いを亡くしたり、友人に先立たれたりする、また健康も若いときの状態を喪失してしまう。家庭や仕事上の役割もなくなってしまう。しかし、それは万人に徐々に訪れる「老い」であり、特別なことではない。寂しい思いを感じながらも、受け入れている高齢者が多いのではないだろうか。もちろん、それを深刻に捉えて悩みが続けば、「心理性うつ」になる人もいるが、少数派だと思われる。

 治療は、悩みをもたらしている困難に対する対応である。苦悩を和らげる精神療法(面接)やカウンセリングを行い、問題となっている現実を変える環境調整(周辺への働きかけ、生活を変える)も必要になる。前述の「身体性うつ」と異なり、抗うつ薬は決め手にならず、補助的にしか用いられない。万一誤って「身体性うつ(うつ病)」と診断されてしまうと、効果のない薬中心の治療になってしまう。精神科医による、現実の悩みや葛藤に苦しんでいる(心理性)のか、何のためかわからずに苦しんでいる(身体性)のか、の見分けが重要になる。

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August 16, 2020 at 09:27PM
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