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教育現場で話題!子どもの学習意欲を上げる「UDデジタル教科書体」とは? - ASCII.jp

「UDデジタル教科書体」とは、ロービジョン(弱視)やディスレクシア(識字障がい)に配慮した、学校で文字を学ぶ子どもたちに向けて作られたUD(ユニバーサルデザイン)書体である。この書体がプログラミング教育のスタートなどで学校のICT環境の整備が進められる中、デジタル教材でも読みやすいと評価されている。これからの教育に求められる書体のユニバーサルデザインに注目してみた。

デジタル化する学校教材で
「読みやすい」と評判

 子どもたちのために読みやすく、学習用にも配慮した書体として、教育関係者や現場の声をもとに作られたのが「UDデジタル教科書体」だ。書体の開発企業として知名度の高いモリサワが、2016年5月にリリースを発表した。

タブレット等のデジタル教材との相性が抜群と評判に(写真はイメージです)

「UDデジタル教科書体」は、名称につく「UD(ユニバーサルデザイン)」が示す通り、誰にとっても利用しやすいユニバーサルデザインのコンセプトに基づき作成されている。2017年の秋からWindows10に標準搭載されているので、パソコンのフォント選択で目にしたことのある人は多いだろう。

 この書体が、教育現場で広がっている。学習指導要領の改定に伴い、現場では、パソコンやタブレット、電子黒板を活用したICT教育を推進する動きが出ている。使用するデジタル教材との相性が抜群だと話題になっているのだ。

 だが、「UDデジタル教科書体」は、もともとはデジタル教材用の書体として開発が始まったのではない。紙の教科書に使われている一般的な教科書体に読みにくさを感じていたロービジョン(弱視)の子どもたちが、学びの場で苦痛を感じることのない、新しいUD書体の実現を目指し、誕生したものだった。

「読みやすい」と「教えやすい」が
両方そろった書体がない!?

 日本語の文字は、「筆文化」が基礎にある。学校の文字学習では、書き順をはじめ、「はらい」や「とめ」、力の入れ加減による線の「太さ」と「細さ」などが重要視される。そのため今まで教科書には、そのような文字学習に適した筆文字風の書体が採用されていた。

 しかし、現場からは「一般的な教科書体が読みにくい子どもがいる」という声が上がっていた。このその声を聞き逃さなかったのが、書体デザイナーである高田裕美さんだった。

「教える先生にとっては、筆文字ベースでできている一般的な教科書体が文字を学び始めた子どもに指導しやすい。一方で、ロービジョンの子どもには、線の太さの強弱や『心』や『水』にある、はねの先の細さなどが読みにくいのです。現場の先生たちは、一部の子どもたちにはゴシック体や丸ゴシック体のような線の太さや流れのトーンが均一な書体のほうが読みやすいことに、すでに気付いていました。しかし、ゴシック体はデザイン性が強いため、授業で教える文字とは画数や形状が異なり、文字を正しく書く『書写』のルールが教えにくい。なんとかならないかと思ったのが、十数年前の開発の始まりでした」

 意外にも「読みやすい」と「教えやすい」の両方の機能を備えた書体が、教育現場にはなかったというのだ。「UDデジタル教科書体」は、この教育現場の課題解決に取り組み、文字の太さの強弱を抑えながら、点やはらい、画数、筆順を学習指導要領に準拠する、画期的な書体だった(図表1)。そして、開発の前後に行う実証テストでは、ロービジョンだけでなく、文字の読み書き学習に困難を抱えるディスレクシアなど他の障がいにも有効なことがわかった。

「UDデジタル教科書体」は、辞書や英会話学習アプリなど幅広い分野で利用されている。2018年の第12回 キッズデザイン賞 特別賞を受賞した
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Windows10への標準搭載で
外国人にもニーズが広がる

 実は高田さんは、もともとモリサワのグループ会社で、高齢者や目の不自由な人々が読みやすい新しい書体の開発プロジェクトを任されていた。新書体の有効性について調査を依頼したバリアフリーやユニバーサルデザインの研究をする慶應義塾大学の中野泰志教授に、視覚障がいのある子どもの教室を案内してもらった。そこで学習現場の「文字」の課題を知り、対象者のメインを「子ども」で考えたいと会社に提案したそうだ。

「小さな会社でしたし、次の開発も決まっていない時期で、反対はされませんでした」と高田さんは言うが、事は簡単に進んだわけではない。「その小さな会社は経営的な問題で、モリサワに吸収されてしまったのです……」と、開発途中の「UDデジタル教科書体」とともに高田さんはモリサワへ移籍した。

株式会社モリサワ東京本社営業企画部公共ビジネス課チーフとして活躍中の書体デザイナー・高田裕美さん。会社をまたいで10年以上行われた「UDデジタル教科書体」の開発プロセスから販促活動まで全てに携わった

 現代の日本語には、漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベットなど、いろいろな要素があり、1つの書体には約1万弱の文字数が必要だ。そのため、数十人規模の制作体制のもとで、コストも時間もかかる。ビジネスとしてのスケール感や、対象クライアントもはっきりしない高田さんの手掛ける「書体」は未知だった。しかし、普段のプロセスとは違ったデザイナーの思いから始まった開発に、「書体を通じて社会に貢献する」をビジョンにするモリサワでも続ける価値がある、とプロジェクトの継続が決まった。

 よい流れに乗ったプロジェクトは、よい出会いもつながっていく。慶應義塾大の中野教授から、「UDデジタル教科書体」の話を聞いたマイクロソフトの担当者が、Windows10への標準搭載の検討を始めたのだ。ちょうどマイクロソフトでも、日本語の書体を充実したいと動いていたところに、うまくはまったというわけだ。

 Windows10に標準搭載されたことで、この書体が知られる機会が増えた。「日本語を学び始めた外国人でも理解しやすいなど、意外なところでの好評価に驚いた」と高田さん。

これからの教育に求められるのは
個人の「読みやすさ」に合わせた書体デザイン

 リリースから4年、「UDデジタル教科書体」の「読みやすさ」は、学校の電子教科書や電子黒板といったデジタル教材の普及に合わせ認知度が上がっている。

「自分の目の前にある教科書と違い、電子黒板は細い部分がある一般の教科書体で表示されると、ロービジョンの子どもでなくても座席の位置や光の当たり具合で読みづらかったりします」と高田さん。ロービジョンの子どもたちを意識して作られた書体は、ICT教育を受ける子どもたちの読みやすさをサポートできる書体でもあったのだ。

誤読が少ない書体として全学校のタブレットにUDデジタル教科書体を導入した兵庫県三木市。その様子が掲載されている「広報みき」(2019年12月号)

 これまであまり考慮されていなかった、子どもの「見え方」と「読む」ことの関係性に切り込んだ画期的な「UDデジタル教科書体」だが、高田さんは「『UDデジタル教科書体』は万能ではなく、読みにくい人もいます。この書体に変えれば、誰でも読みやすくなるという誤解もあるようで、目的や対象者などを皆さんにきちんと理解して利用してもらえるように、私たちも努力して伝えていかなくてはいけないと感じています」と付け加えた。

「白い紙に黒い文字」がまぶしくて読みづらいなど、読みにくさの原因は子どもによって異なる。「読み」の負担は子どもの学習意欲に関わってくるが、デジタル技術はこれまでの集団教育では難しかった、個別に対応した「読みやすさ」を可能にできる。そして何よりも、教える側にとっては一部の子どもたちに届かなかった部分に配慮できるというのは喜ばしいことだ。ユニバーサルデザインの理念につながっている「UDデジタル教科書体」は、「学びの機会をどんな子どもたちにも提供する」、これからの教育への取り組みである。

(まついきみこ@子どもの本と教育環境ジャーナリスト/5時から作家塾(R))

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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