ここ数年の旧車ブームによって、日本のスポーツカーの中古車価格は、異常とも思える価格暴騰が続いている。
その原因の一つと言われているのは、「アメリカの25年ルール」である。アメリカではアメリカで販売されていない中古車の輸入に厳しい制限があり、右ハンドル車の輸入も認めていないため、アメリカに日本車の中古車を持ち込むのは難しい。
しかし例外があって、生産後25年経過したクルマはクラシックカーとみなされさまざまな障壁がなくなり輸入することが可能になる。こうして、日本にあるスポーツカーが買い漁られたというわけだ。
特に狙われたのは、R32GT-R、R33GT-R、NSXといった、280psのスポーツカーたちだ。
こうした状況のなかで、新型コロナウイルスショックが起きた。コロナウイルスの感染拡大がこのまま続けば、クルマを買うどころではなくなるため、高騰が続いていた旧車の中古車相場が下がる可能性も出てくる。
また、コロナショックによる円高進行が進み、現在の118円から90円台になれば、日本から旧車を輸入する際に為替によるうまみが減るため、日本にあるスポーツカーの購入に歯止めがかかり、それによって中古車相場が下がるかもしれない。
そこで、本企画では280ps中古車スポーツカーの価格が今後どうなっていくのか、専門店に話を聞きながら徹底解説する。
文/谷山 雪
写真/ベストカーWeb編集部
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新型コロナによって旧車の価格は下がるか?
「280ps」。なんとも甘美な響きである。
2004年7月に普通自動車の280ps自主規制は撤廃されたわけだが、しかし自主規制の範囲内でギリギリの高性能を目指していた時代の国産ハイパフォーマンスモデルには、どこか「もののあはれ(しみじみとした情趣)」がある。それが、「280ps車」が今なお人々を魅了し続ける所以だ。
しかし280ps車は人を魅了するがゆえに、その中古車相場は基本的に高額となる。
例えばR34スカイラインGT-Rは「1000万円以上」もザラであり、500万円以上のプライスタグが付く80スープラも珍しくない。
そして日本だけでなく北米を中心とする海外でジャパニーズ280psマシンの人気が高まっている点も、その高値の一因になっている。
だが直近のコロナウイルス禍により、もしかしたら280ps車の相場は崩れるのかもしれない。
なぜならば、ウイルス禍がここまでのレベルになると、人は基本的に「新たに車を買う」どころの騒ぎではなくなる。
そのため中古車市場の需給バランスが崩れ、なかでも特に280ps車的ハイパフォーマンスカーの需要が低下し、その相場が崩れる……というのがまず第一のシナリオ。
第二のシナリオは、為替相場の変動で海外バイヤーによる「ジャパニーズ280psマシンの買い漁り」がストップし、その結果として相場下落に転じる――というものだ。
現在は「有事のドル買い」ということで世界的にドル買いが進んでいるが、万一、ニューヨーク州を中心とする米国のコロナ抑え込みが大失敗に終わると……アメリカの権威は完全に失墜し、「米中の覇権逆転」みたいな状況も見えてくる。
そうなるとリスクの回避先として日本円が選ばれ、その結果として1ドル=90円ぐらいの超円高に振れる可能性は大いにあるのだ。
そしてそのぐらいの円高になると、海外勢としてはわざわざ日本から輸入(日本から見れば輸出)する金銭的なうまみが減じるため、昨今続いていた海外勢の買い攻勢が止み、その結果としてジャパニーズ280psマシンの相場が下がっていく――という寸法である。
しかし以上はすべて「机上の空論」でしかない。実際は今後どうなりそうなのか? 専門店からのヒアリングを踏まえながら、車種別に相場の詳細を検討してみることにしよう。
初代ホンダ NSX(1990~2005年)
中古車情報サイト「カーセンサーnet」での掲載台数は2020年4月上旬現在、全国で87台。モデル全体の価格分布は約370万~約1600万円で、平均価格は約596万円というのが、NSX-Rを除く初代NSXのおおむねの現状である。
走行距離別に見ると、「距離が少ない=高い」「距離が多い=安い」という基本的な傾向はあるものの、それは「絶対」ではなく、「走行2万km台で540万円」という物件もあれば「走行5万km台で1500万円」という個体もある。要は「価格はコンディション次第」ということだ。
そして初代NSXの今後の相場は「おおむねキープ」ということになりそうな気配。
匿名を条件に話してくれた販売店はこう語る。「確かにコロナ以降、値下げして売り切ってしまいたい気持ちもある。
だが、例えば1400万円の物件を半値の700万円にすることはできないため、下げるとしてもせいぜい100万円。そんな半端で意味のない安売りをするぐらいなら、今はジタバタせず、事態収束まで静観を決め込んだほうが得策です」
財務的な体力に欠ける販売店が「当座のキャッシュ」を作るため、良質なNSXを安値放出する可能性もゼロではない。
しかし基本的には「安めのモノは変わらず安く、高値のモノも変わらず高く」というのが、初代NSXの短期的なトレンドになりそうだ。
日産R34スカイラインGT-R(1999~2002年)
ネオクラシックブームを背景に世界的に人気が爆発し、超絶高値が続いていたR34GT-R。その直近の状況は流通量が全国61台で、モデル全体の相場は約600万~約2100万円。平均価格はおおむね887万円だ。
こちらも初代NSX同様、走行距離別に見ると「10万km超」のグループが最多となっているが、それでも1000万円近い車両価格が付くことも珍しくないという事実が、このクルマの人気の加熱ぶりを表している。
しかしヒアリングによれば、海外からの買い攻勢が直近はかなり減ったため、海外相場に釣られる形での国内相場の爆騰は「ある程度収まっている」とのこと。
また今のところ為替は円安ドル高傾向だが、これが1ドル=90円ぐらいの円高になれば海外勢のパワーはさらに弱まり、R34GT-Rの相場はある程度沈静化する可能性もある。
だがそれは「一般的なスペックの中古車」に限った話。かなりの高値となる「VスペックIIの超低走行物件」等は、販売店としては「2000万円どころか、将来的には3000万円、4000万円になるかも」という“長期目線”で保有している場合が多い。そのため、短期目線で右往左往しながら安値放出するというケースは少ないのだ。
先代トヨタ 80スープラ(1993~2002年)
国内では新型スープラの話題に引っ張られ、海外では映画『ワイルド・スピード』の影響で高値が続いている80スープラ。
直近の相場状況は、カーセンサーnet掲載台数が全国63台で、全体の相場は約130万~約600万円。平均価格は約295万円となっている。
こちらはコロナ禍の影響がどれぐらいのパーセンテージかはさておき、高騰を続けていた相場は若干ながら沈静化している。
具体的には、かなり良コンディションな低走行物件は相変わらず500万円超で販売されているが、走行6万~9万km付近の一般的な個体であれば150万~300万円付近でも十分見つけることができるのだ。
また流通台数としては最も多い「10万km超」のカテゴリーでも、車両価格250万円付近に注目すべき「フルノーマル物件」が散見される。
新型コロナウイルスの問題が完全解決するのが最善であることは、もちろん言うまでもない。
だがコロナ問題が解決されたあかつきには、現在やや沈静化している80スープラの相場は再び上昇に転じる可能性も高い。
難しい問題だが、興味がある人はとにかく相場に注視し、最適なタイミングを各自で見計らうべきだろう。
スバル インプレッサWRX STI(GD系/2000~2007年)
280ps世代のWRX STIといえば、2代目のGD系。丸目から涙目、そして鷹目へと顔面整形を繰り返したあの世代である。
STI製コンプリートカー「S203」の好条件な中古車だけは300万円以上となる場合が多いが、それ以外のグレードや、S203でも一般的なコンディションであれば、車両価格170万円前後で普通に狙えるのがGD系WRX STIの現状だ。
流通量は全国231台と豊富で、全体の相場は約50万~約550万円と上下に幅広いが、平均価格は約133万円。
走行距離別に見ると、最も多いのが10万km超のグループで、全321台中の110台が走行10万km超となる。そのなかでの相場は約60万~180万円とこれまた上下に幅広く、コンディションとメンテナンス次第で車両プライスが決まってくる模様。
もちろん10万km超ではなく、もっと走行距離少なめの個体も、比較的リーズナブルな予算で探せるのがGD系インプの美点。
さすがに走行1万km台のS203には500万円オーバーのプライスが付いているが、一般的なグレードで一般的なコンディションの中古車であれば、走行3万~6万kmあたりのゾーンでも車両170万円前後で見つけることはできる。
販売店へのヒアリングによれば、GD系インプは「現状、コロナの影響も海外バイヤー減少の影響も特にない。スバル車が好きな人が、今までとほぼ同じ感じで淡々と買っていく」という状況であるとのこと。
比較的安価に狙える「280ps車の名作」だが、「その代わり、今後もそう大きく下がるわけではない」というのが、GD系WRX STIのとりあえずのトレンドであるようだ。
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April 13, 2020 at 05:00AM
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