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エンターテインメントがもつ本質的な価値とは? “遊び”から行動変容を促す「FUNGUAGE」を、バンダイナムコ研究所はこうして実装する|WIRED.jp - WIRED.jp

エンターテインメント会社として「ゲーム」をつくるのではない。むしろ、日常生活や社会への「遊び」の実装が重要だ──。バンダイナムコ研究所イノヴェイション戦略本部フューチャーデザイン部は、「バンダイナムコ」の一般的なイメージからは少しかけ離れた、ユニークな実験を行なっている。“遊び”を通じて、人々の行動変容を促すデザインコンセプト「FUNGUAGE」の社会実装に取り組む同研究所の裏側を、『WIRED』日本版が取材した。

©BANDAI NAMCO Entertainment Inc./PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

「バンダイナムコ研究所」の裏側

ゲーム、アニメ、おもちゃ、アミューズメント施設、音楽……バンダイナムコグループが手がける事業領域は幅広い。そして、パックマンをはじめとするIP(知的財産)は、多くの人々に認知されている。そんな同グループは、2019年4月に「バンダイナムコ研究所」なる組織を設立した。

荒明浩一|KOICHI ARAAKE
外資系ゲーム企業を経て、2007年バンダイナムコゲームスへ入社。業務用・家庭用の「鉄拳6」プロジェクトにゲームデザイナー・ディレクターとして参加。17年よりフィールドを研究開発(R&D)へシフトし、アルスエレクトロニカ・フューチャーラボと博報堂とのオープンイノヴェイション・プロジェクトに参画。19年4月よりバンダイナムコ研究所にて「FUNGUAGE」のアーティスティック・リサーチを推進。PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

「わたしたちが保有する遊びやエンターテインメントに関する知見を最大限に活かしながら、最先端の技術研究を起点に、新しいエンターテインメントの価値を創出していくというミッションを掲げています。グループ内外の企業と協力しながら、PoC(Proof of Concept:概念実証)を行ない、事業化の道筋を模索する研究機関です」

同研究所フューチャーデザイン部にて、FUNGUAGEチームを率いる荒明浩一は、自らのミッションをこう語る。バンダイナムコ研究所が取り組むのは、「ゲーム開発」ではない。むしろ、その外側に飛び出すことで、事業を生み出そうとしている。

「ゲーム・エンターテインメント産業に対して危機感があるんです。既存事業も手広いものの、事業会社としてつねに新しい挑戦をし続けなければなりません。しかし、日々の業務で手一杯の部署も多く、その役割を研究所が引き受けています」

現在、バンダイナムコ研究所には約40名のメンバーが所属しており、荒明とともにデザインコンセプト「FUNGUAGE」の開発と社会実装に挑んでいるのが、同じくフューチャーデザイン部の岩田永司と河野通就だ。岩田はバンダイナムコエンターテインメント(当時のバンダイナムコゲームス)に入社後、社内ツールの開発に関わる傍ら、個人活動としてVRやMRに関するゲーム開発に従事したのち、R&D部門に合流する。

岩田永司|EIJI IWATA
2011年バンダイナムコゲームスに入社、主に社内ミドルウェアの開発に従事。現在はバンダイナムコ研究所に所属し、xRを主軸として新進の技術や概念を取り入れたエンターテインメントの開発に取り組んでいる。PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

「Oculus Rift®が発売されたころ、社外のVRコミュニティに参加し、ゲーム制作に取り組んでいました。それを仕事にしたかったのですが、当時はデヴァイスの性能などが追いついておらず難しかった。それから数年が経ち、HoloLens®などのMRデヴァイスの登場や、クオリティの高いVRゲームの開発環境が整ったことで、会社の業務として取り組めることになりました。いまは現実空間にデジタル空間が重なるMRにおける表現を起点に、新しい遊びを考えています」

一方、河野は「人間拡張」をテーマに掲げる東京大学大学院学際情報学環の暦本研究室を経て、19年4月にバンダイナムコ研究所に合流する。

河野通就|MICHINARI KONO
2014年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。メディアアートに関する制作と研究に従事し、国内外多数の展覧会において作品出展を行う。18年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学、博士(学際情報学)。東京大学大学院情報学環特任研究員を経て、19年よりバンダイナムコ研究所に所属。ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)、人間拡張に関する研究に従事。PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

「ゲーム開発に従事した経験はないですが、大学院時代のハプティクス(触覚)にまつわる研究は、エンターテインメント業界が応用先のひとつとして考えられます。その領域の融合を目指し、ゲーム業界に着地しました」

「最初は、アートシンキングに懐疑的だったんです」

荒明、岩田、河野の3名が開発を進めてきた「FUNGUAGE」とは、「FUN」と「LANGUAGE」を組み合わせた造語であり、“楽しいつながり”を生み出すことを目指したデザインコンセプトだ。人々のさまざまな行動に遊び心をインストールし、行動変容を促そうとしている。荒明はバンダイナムコ研究所として取り組む必然性をこう語る。

「ゲームをする、アニメを観る、ゲームセンターに行くという行為は、楽しいからやるわけです。つまり、楽しさや遊びを起点に人々は能動的な行動を誘発されている。それらの要素を、これまで遊びとは関係がなかった空間や場所にインストールすると、人々の行動が変わっていくと考えています。その変化の触媒となるのが『FUNGUAGE』なんです」

PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

「FUNGUAGE」が誕生するきっかけとなったのは、17年にバンダイナムコホールディングスが主導した「PACATHON(パッカソン)」だ。パックマンを題材としたハッカソンであり、「ソーシャル」「教育」「言語」などのキーワードに基づき、グループ横断で組まれた各チームでプロトタイプを制作した。

その際、荒明と岩田は「言語」をテーマとしたチームに参加。ワークショップの企画・設計を担当したのが、アルスエレクトロニカと博報堂であった。彼らが強みとする「アートシンキング・プログラム」や「アーティスティック・リサーチ」の手法を活かし、生み出された4つのプロトタイプは17年のアルスエレクトロニカにて展示された。

「最初はアートシンキングと言われても、ピンと来ませんでした。むしろ懐疑的というか。ワークショップ自体は面白かったものの、自由に研究をしたほうがよいものをつくれると思ったんです」

しかし、荒明はそのプロセスに参加するなかで、考え方が徐々に変わっていったと言葉を続ける。

「わたしがかかわってきたゲーム開発では、ゲームを完成品としてつくり上げ、それを『答え』としてユーザーに提示していました。しかしアートシンキングの場合は、未完成なプロトタイプによる『問い』を提示し、フィードバックを得て、それをブラッシュアップしていく。プロトタイプを通じて議論が生まれれば、思いもよらない方向に発想が向かい、可能性がグッと広がることもある。そのプロセスが新鮮で、面白かったんです」

同じく参加していた岩田も、アートシンキングのプロセスを経験したメリットを次のように話す。「自分がゲームというフォーマットに固執していると気づいたんです。もちろん、ゲームにとらわれずに面白いものをつくりたいという気持ちはありましたが、アートシンキングのプロセスを経たことで、ゲームというフォーマットから解放されて思考できるようになったのが大きいと思います」

また、「問い直す」行為自体も、バンダイナムコ研究所に意外な効用をもたらしている。

「この活動を通して『遊びって何だろう』『ゲームって何だろう』と、その根源的な部分から考え直すことができたんです。わたしたちが強みとしている部分だからこそ、改めて深掘りする必要がある。ゲームをつくってきた人間が暗黙知として継承してきた知見を可視化することも、研究所の役割のひとつかもしれません」

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    1/4「パックマンを使った新しい言語は、言語自体も楽しいものになるのではないか?」そんな問いに基づいて制作された最初のプロトタイプを、2017年のアルスエレクトロニカ・フェスティヴァルには展示した。パックマンが自身のアヴァターとなり、表現したい感情を選択すると、パックマンがそれを表現してくれるという内容だ。

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    2/42018年のアルスエレクトロニカ・フェスティヴァルでは『PAC-MAN Meets Deep Space “FUNGUAGE”』を展示。「Deep Space 8K」と呼ばれる、壁面と床面に16m×9mの巨大なプロジェクション映像を展開できるシアター型施設を利用し、パックマンを社会言語(social language)として機能させた。自身のアヴァターがパックマンとなり、自らの行動に即した動きをパックマンが表現してくれる。周囲との感情の共振やインタラクションにより、イヴェントが発生する仕組みも。

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    3/42019年には、旧郵便局を改装した「POST CITY」にて展示を実施。「FUNGUAGE ROOM」には、先述の「The AI Gamer/Q56」や最小サイズで人間の共感を引きだす「ACT-90S」が展示された。PHOTOGRAPH BY SHOHEI NAKANOWATARI

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    4/4PHOTOGRAPH BY SHOHEI NAKANOWATARI

「遊び」による、人間の行動変容

17年の「PACATHON」を経て、FUNGUAGEのコンセプトを精緻化するために、バンダイナムコ研究所は18年、19年とアルスエレクトロニカ・フェスティヴァルに続けて出展した。

PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

20年2月に東京ミッドタウン六本木で開催された「未来の学校祭」には、「“Humanized Canon” composed by Escalator」を展示。パブリックな空間にFUNGUAGEをインストールすると、どんなPOSITIVE&FUNな変化を生み出すことができるか?という問いを起点に、東京ミッドタウンのエスカレーターに「FUNGUAGE」をインストールした。

エスカレーターに人間が続けて乗ると、美しいハーモニーが鳴り響く。一方、エスカレーターを急いで歩いて登ろうとする人が出現すると、その奏でられていたハーモニーが突如消えてしまうという仕組みを制作し、エスカレーターの安全利用を促すと同時に、上階への新たなる導線づくりを実装した。

「未来の学校祭」では、「FUN DRIVENが世界を変える~日常を変える実践~」と題したトークセッションに荒明が登壇した。PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

社会実装を進めるうえで重要なのは、定量的なデータを集めること。今回の展示では、エスカレーターの評価測定を実施した。ほかのエスカレーターと比較し、展示したエスカレーターの利用者数は増えたのか。展示していない期間と比較し、利用者数は増えたのか……河野はその成果を次のように話す。

「測定の結果、今回の展示作品が集客効果に貢献することが統計的に明らかになったんです。つまり、FUNGUAGEをインストールすると集客効果につながります、と今後は言えます」

FUNGUAGEによって行動変容を促す際に、バンダイナムコの武器となるのが保有するIPだ。荒明は「FUNGUAGE」の事業化への道筋についても、明かしてくれた。

「ユーザーとのタッチポイントにおいてこそ、IPの本領は発揮されると思っています。今回の『未来の学校祭』で展示したエスカレーターは、音が鳴るから『なんとなく楽しそう』と思ってもらえるけれど、そこにキャラクターのIPが加われば、どうでしょう? キャラクターを目的に、そこに足を運ぶかもしれない。『FUNGUAGE』とバンダイナムコグループが保有するIPを組み合わせることで、そういったチャンスを捉え、事業化を進めていければと考えています。これからは『FUNGUAGE』のコンセプトに共感し、ともにイノヴェイションを起こしたいプレイヤーを巻き込んでいきたいです。関心ある企業には、『ぜひバンダイナムコ研究所と組みませんか』と声をかけたいですね」

PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

[ バンダイナムコ研究所 ]

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March 23, 2020 at 02:00PM
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